病院紹介

病院長ご挨拶

社会福祉法人としての済生会病院の覚悟

病院長  北村 昌之  

◇改正社会福祉法の成立◇

 本年3月31日に介護や保育の施設を運営する社会福祉法人の改革策を盛り込んだ改正社会福祉法が成立し、来年4月1日から(一部は本年4月より)施行されることとなりました。この改正は、①地域における公益的な活動の義務付け、②法人組織の体制強化、③財務諸表の公開を義務付けるといった法人運営の透明性を確保することを目的としています。その一方で、この法改正に対しては、公的責任の後退と社会福祉の市場化とのバランスが適正であるかといった問題も指摘されています。
 元来社会福祉は憲法第25条に基づく国の義務とされています(日本国憲法第二十五条:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない)。しかし、現実には、社会福祉は国家予算の中で、その時々の社会、経済状況に応じて実施されることになります。
 我国においては、低成長期に入り、多額の公的債務を抱えるという厳しい財政状態の下で、超高齢化の進行、家族・地域の変容、非正規労働者の増加等極めてシビアな社会情勢の変化により生じた、社会生活上の深刻な諸問題に対応していかなければなりません。2000年には戦後初めての社会福祉法の改正と共に介護保険導入が行われ、これを境に社会福祉は、行政がサービスの対象者と内容を定める「措置制度」から、利用者がサービスを選択して自らの意思に基づき利用する「契約制度」へ変更されました。これにより、福祉サービスを提供する経営主体が多様化すると共に、提供されるサービスの種類や内容の多様化も進みました。言い換えれば、従来の社会福祉法人、NPO法人、ボランティア、住民団体といった非営利団体の他に、民間業者の参入を促すことにより市場原理を活用する方向へ転換してきているわけです。その結果、福祉の網の目から漏れる人達が増加することになり、今や社会福祉法人は、これらの人達のセーフティネットになるという重要な役割を果たすことが求められています。

◇社会福祉法人に求められる役割◇
(社会福法人の在り方等に関する検討委員会からの抜粋)

(1) 地域包括ケアシステムにおける役割

 介護保険制度においては、地域包括ケアシステムの構築が目標とされ、介護サービスにとどまらない生活支援も含めた体制整備が提唱されている。そのシステムとは、重度な要介護状態になっても、住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最期まで続けられるよう、概ね30分以内に必要なサービスが提供される中学校区などの日常生活圏域内において、医療、介護、予防、住ま い、生活支援が切れ目なく提供される体制のこととされている。

(2) 社会福祉制度のセーフティネットとしての役割

  1. 高齢者の一人暮らしや夫婦のみ世帯における認知症、家庭内の閉鎖的環境から生ずる虐待、精神患による精神的・経済的な困窮、発達障害、地域での孤立などの社会生活上の困難を抱える人たちは増加傾 向にあり、こうした人たちに対する日常生活の見守りや権利擁護など、制度で提供されるサービスだけにとどまらない支援が必要となっている。
  2. 社会福祉制度の狭間のニーズ、市場原理では必ずしも満たされないニーズについて、組織的かつ継続的に取り組んでいく主体が必要とされている。
  3. 社会福祉法人、ボランティア、NPO、住民団体といった非営利組織は、①政府の失敗の補完機能、②市場の失敗の補完機能を担っていると言われている。
  4. 社会福祉法人は、①地域包括ケアシステムの構築に加えて、②対応の難しい、ソーシャルワークの必要な人への対応、③新たなサービスの創造を積極的に行っていくなど、社会福祉制度と福祉サービスの提供主体、両方のセーフティネットとしての役割を果たしていく必要がある。

(3) 社会福祉制度における地方公共団体と地域住民をつなぐ役割

  1. 自らの資源を生かして、地方公共団体や住民活動をつなぎ、地方公共団体との間に立ちネットワークを作っていくなど、まちづくりの中核的役割を担うような事業運営が望まれる。
  2. 地域住民と地方公共団体との間をつなぐためには、地域の多様なニーズを汲み上げ、地域ニーズを反映したサービス提供を行うなど、地域における信頼を確保する仕組みを強化していく必 要がある。
  3. 事業運営の内容や新たな事業展開、組織体制などについて、積極的に利用者、地域住民等の参画や情報提供を進め、地域の信頼を得ていくことが求められる。

◇再び重要性が増す済生会病院の役割◇

 当院は、昭和2年4月29日、北九州工業地帯の中心で当時公的医療機関を持たなかった八幡市の要請により、恩賜財団済生会八幡診療所として発足しました。その頃の八幡は、すでに日本の重工業の中心地となっており、その規模を年々拡大していたので、各地からの労働者流入には著しいものがありました。こうした状況が、必然的に地域社会に歪を生み出し、済生会に福祉や医療の面での対応が託されたわけです。
 戦後は日本国憲法のもと社会福祉法が整備され、さらに昭和36年には国民皆保険制度が完成しました。こうした中で、済生会病院は、無料低額診療以外は一般の医療法人の病院と同じ役割を果たすに過ぎず、社会福祉法人としてのあり方が問い直される時期が長く続きました。しかし、現在我が国は前に述べたような厳しい社会情勢の変化に曝され、さらにこれらの変化は今後加速することが予測されています。
 このような中、済生会はグループ内に病院と介護施設を持つ社会福祉法人として、社会への貢献を求められています。今や済生会は、こうした社会の動きを真摯に受止め、社会から何を求められているのか(地域のニーズ)、何ができるか、何をなすべきかを真剣かつ誠実に考え、実践する時期に来ているわけです。当院はこれから、この命題に積極的かつ建設的に取り組み、また現場において具体的な実践と反省を積み重ねながら、社会福祉法人としての使命を果たしていく考えです。

◇最近3年間の当院の取り組み◇

 最近、急性期病院の入院患者の高齢化が目立つようになりました。私が医師となった40年前、外科において高齢者の手術とは65歳以上あるいは70歳以上の方たちが対象でした。しかし、最近は手術を受ける高齢者の中で85歳は比較的若いほうで、多くの方たちは90歳以上という印象です。しかも、ほとんどの高齢者が多臓器に何らかの疾患を抱えておられ、多くの方に程度の差はあれ認知症が見られます。さらに、内科系では高齢者の誤嚥性肺炎による入院が目立ってきています。一般的に、高齢者が肺炎等の急性期疾患に罹患して入院した場合、認知症の発症あるいは進行が生じ、寝たきりになる事が多いと言われています。まさに高齢社会を病院内で目の当たりにしている状態です。さらに急性期病院では、認知症に対する誤解から、認知症の方は入院すると暴力を振るったり徘徊して手間がかかるので他の患者に手が回らなくなると言う理由で、入院を敬遠しがちです。
 当院はこのような社会の変化にいち早く対応するため、独自の取り組みとして、3年前に高齢者が急性期疾患で入院しても、認知症が進まない、寝たきりにならない事をめざし、高齢者急性期ケア病棟を創設しました。また、国民の2人に1人ががんに罹患し、3人に1人ががんで死亡すると言われていますが、そのような患者へ対応するため、同じ時期に緩和ケア病棟を設けました。さらに、昨年は、患者を元気な姿で在宅生活に戻すために回復期リハビリテーション病棟を作りました。こうした試みについては良好な結果を得ており、かなりの手ごたえを感じています。

◇社会福祉法人としての当院の方向性◇
(地域包括ケアシステムの中心的役割:地域住民と地方公共団体の間に立つ)

 地域住民との協議会を定期的に開催することにより地域の潜在的ニーズを汲み上げ、さらにそのニーズに係るサービスの評価を行うようなシステムを構築します。
 次に、地方公共団体の担当部署とのネットワークを構築し、院内の総合相談センターにおいて生活困窮者等のソーシャルワークや健康相談等を行い、行政と連携したワン・ストップなサービスを提供します。
 さらに、汲み上げた地域のニーズに応えるための新たなサービスを構築し、積極的に提供していきます。
 特に、今後最低年金で生活を強いられる単身高齢者の生活、介護、医療を支えるための医療福祉システムを構築していきます。

(社会福祉制度の中の病院機能)

 厚労省の方針として、医療分野においては、病院の機能の分化と連携が強く謳われています。しかし、社会福祉制度の網の目から漏れる人たちにとっては、入院から退院までさらに在宅へと一貫した医療・介護サービスを行うことのできる病院が必要です。そして、これを行うためには、急性期、回復期、在宅の領域で高い医療の質を持つ病院でなければなりません。さらに、在宅における高齢者の急性疾患あるいは急性増悪に対して、いつでも、積極的に受け入れる病院であるべきです。
 当院はこれから、高い倫理性、社会性を持ち、環境の変化に柔軟で、創造力豊かな病院をめざしていきます。

社会福祉法人 恩賜財団 済生会
済生会八幡総合病院

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